アメリカ滞在記 〜現実を生きる 編〜

リチャードの家での生活がはじまりすぐに
「アルツハイマーという病気をしってる?」とリチャードが言い出した。
カミさんが「はい、知ってますよ」というと、リチャードは少し照れくさそうに

「わたしはアルツハイマーだから、5年前のことはよく覚えているんだけど、昨日のことは覚えていないんだよ、だから・・・」と話しはじめた。

はじめの部分は聞き取れたけど、後の長い話は所々しか理解できず、カミさんの訳してくれる話を聞いていた。

確かに、若かりし頃の自分が兵隊だった頃の話は鮮明に覚えていて、
当時パラシュート部隊だった頃の話だったり、
その後、父と一緒に農場経営をはじめた頃の話だったり、
自らが経営者となり世界各国から訪れる研修生の話まで、
何十年も前のいろんな話をしてくれた。

世界中を旅していた頃の話、世界中から研修生が訪れていた頃の話、
そして記憶の中にいつまでも残っている人たちの話・・・

カミさんもその中の一人

そんな話をつい昨日のことのように話してくれた

リチャードは自分のことがわかっていて、そしてそれを認めてしっかりと受け止めていた
ブルースをはじめ家族も、きっと親しい仲間達も

昨日のことは曖昧だったり覚えていなかったりでもその曖昧な記憶で生きていて、それは彼にとって現実で、むしろ曖昧だったことすらも「そうじゃない!!、それは間違っている!! 正しいのはこうだ!!」というのではなく、それがそのまま現実として生きている。

そして、家族もまたその現実を一緒に生きている。
もちろん、家族にとっては大変なことだと思うけど・・・

リチャードにとってこの現実はありのままであっても真実ではないこともある

むしろ真実よりも現実であることを自ら選んで生きているようにも思えた。

ある晩、リチャードとテレビのスポーツ番組を見ていたら
「Manabu ツールドフランスを知ってる? アームストロングって有名な選手がいただろ?」

「もちろん、知ってます!  優勝者はマイヨ・ジョーヌって黄色いジャージを着ますよね」
「そうそう、あのレースはね、とても過酷で勝者が着るあの黄色いジャージは栄光の証なんだよ!! それでね、・・・・・・」

なんて話をしていたら、翌朝リビングのトレーニングバイクでリハビリをしているリチャードにカミさんが
「リチャード、リハビリしてるの?」と言うと

「来年のツールドフランスに出るためにトレーニングしてるんだよ!! 黄色のジャージを着るためにね^^ 」なんてユーモアたっぷりの笑顔で答えわたしの方をニヤリと見た。


人は誠実であり真実のままに生きていければ素晴らしい人生だろうと思う

でも、時に現実を生きることを選択するのも暖かくて優しくて素敵な生き方なんだと思う


たとえその現実は真実とは違っていても

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